お知らせ

2020.03.30 【3/11開催中止分】「ボランティアガイド講習」講師からのメッセージ

関西観光本部では、今後通訳案内士を目指す皆さん、観光ボランティアガイドや語学ボランティアガイドを目指す皆さんを対象とした、「ボランティアガイド講習」を2020年3月11日に開催する予定にしておりましたが、今般の新型コロナウイルス感染拡大防止のため、中止といたしました。講師を務めていただく予定でした、株式会社ランデルズのランデル洋子代表取締役に取材に伺いましたので、皆様に公開いたします。

 

ランデル洋子さん「観光ボランティアガイドのための成功ポイント」

【はじめに】

観光ボランティアの方々、またそれを目指されている方々に、まず初めにどのような意義があり、何を目的として活動されるかについて、明確にしていただきたいポイントを述べたいと思います。

ボランティアというのは、「できるときに、できるだけ」行うということが基本となります。と同時に、やるからには「迷惑をかけない」「自分ができる裁量以上のことはしない」など自分でマインドをセットできるようにならなければならないと思ってきました。私自身学生時代からボランティアはしてきたのですが、その中で常に思ってきたことは、ボランティアは「自分のため」でもあり、「社会貢献」でもあり、そしてなにより「楽しみ」でなければならないということです。それは他人の役に立つ、素晴らしい活躍の場であるということの自覚であったと思います。また、海外から来られた方々に、「日本の良さを分かってもらい、もう一度日本に来たい」と思っていただけるようにしたいという気持ちです。

このことは、国家試験に合格した全国通訳案内士や、指定の研修を修了した地域通訳案内士が職業としてお客様に同行し広範囲でガイドできるのに対して、語学ボランティアガイドは街中観光案内や指定場所の案内といった限られた動きの中でお客様をサポートするという違いはあるものの、基本的なガイドでのマインドは同じといえます。

 

【ボランティアガイドの基本マナーについて】

まず強調しておきたいことは、いかにボランティアという立場であっても、「責任感を持って臨む」ということです。何故観光ボランティアが望まれているのかを考えますと、人材という面でそのイベントや地域発展のために是非とも成功させたいと思って要請されているわけですから、引き受けた業務は滞りなくこなす責任感がなくてはなりません。すでにこれまで多くの崇高なボランティア精神を発揮して活動されてきた方々がおられますので、その人たちの「ボランティアのプロ」の活躍をさらに押し上げるような「責任感」でお願いしたいものです。「私たちは黒子」という、縁の下の力持ち的な立場をプロ意識で発揮していただきたい。

また、観光ボランティアは相手のある活動です。お客様となるのは海外からの、あまり日本を詳しく知っている方々ではないわけですから、様々な心理的な要望があります。例えば〈情報が欲しい〉〈サポートが欲しい〉〈楽しみたい〉〈安全を確保したい〉〈地元の方と交流したい〉〈日本のことを、日本人を知りたい〉などなど様々な期待と希望・要望があります。ガイドするには、そのお客様が何を望んでおられるか、何に困っておられるか、といった気持ちに寄り添うものでなければなりません。それが「お客様の気持ち第一優先」のホスピタリティだと思います。そのために必要な能力は「察知力」です。案内しながら気づくということもあるでしょう。お客様から言われることもあるでしょう。言葉に出せないが、なんとなく観光を楽しんでいなさそうな雰囲気の時もあるでしょう。それに気づくことがとても重要です。察知する人間力が問われるという場面です。そこでリーダーシップがとれるか、優しさを発揮できるかが、観光ボランティアの腕にかかっているといえます。

しかし、何事もやり過ぎはいただけません。お客様のためを思ってのことであっても「押し付けがましいことは避ける」べきです。例えば、ガイドをしてやっているという恩着せがましい気持ちが知らず知らずのうちに上から目線の言動になってしまっているとか、私はここまで知っていると見せつける印象になってしまうとか、ガイドの側の自己満足で終るようなことはしないことです。特に、喋り過ぎがネック。知識があってどうしてもしゃべりたくなるという方は、まずお客様の気持ちに寄り添うことに留意してもらいたいものです。

ボランティアガイドの中には「自分のためだけに参加している」ような方を見受けることがあります。その案内がお客様のためになっているのか、主催者の役に立っているのか、地域貢献できているのか、という点などを再度点検しながら自己満足で終らないガイドであってほしいと思います。 また、年齢、性別、国籍、立場によって柔軟な対応は必要ですが、案内の態度がガラリと変えるようなことはないようにするのが大切な心構えです。

同時に、「実力以上の作業は引き受けない」という基本姿勢も重要になってきます。できないことまでやろうとするとお客様は被害者になります。時間も、難易度も、それから資金面でも。ボランティアは的確に自分のキャパシティを判断しなくてはなりません。

そして笑顔を絶やさないことも重要なポイントです。服装もきちんとし(ユニフォームがある場合などでも)ちゃんと外観を整えることがお客様の印象にもつながりますから、気遣いをしましょう。

基本マナーでいつも原点に立ち返ってチェックすべきことは、まず「安全」第一であること、次に「快適」であること、そして「楽しさ」があることです。特に「安全」に留意することは、お客様と接している以上、最も重要です。つねにチェックしてください。「快適」というのは、お客様の様子をよくよく観察し、物理的にそして精神的にも満足して頂いているかどうかを思いやることです。例えば口には出して言えないでいるけれど、不快に感じられていることがないかを配慮してお客様にとって快適な時間を創り出すもてなしが必要です。そして最後にお客様が「楽しんでいる」ことを感じられるようにしたいものです。「安全・快適・楽しさ」はお客様に接している時の立ち返る原点です。

 

【英語表現について】

お客様との会話では、なによりも「わかりやすい英語表現」であることが肝要。短文で、コンパクトに伝えること。固有名詞などは聴き取りにくいこともありますので、通常の150%ぐらいゆっくりと話すことが必要です。どのような場合でも初めて聞く言葉は分かりにくいものです。

お客様に敬意を持ち、お客様からも敬意を持って聞いてもらえるためにも、「品のない言葉は避ける」ことも注意したいですね。最初からそうする人は少ないでしょうが、少し慣れてくるとつい〈wanna、gonna、yeah、booze、guys、など〉くだけた言葉を発しがちになる場合もありますが、これも避けたいものです。

また、よく使われる〈please〉は、やんわりと聞こえる命令文であることもお忘れなく。丁寧に話しているつもりでも、度重なるとお客様は気持ちよくないかもしれません。疑問文にして促すなど、より的確な表現法があり得ますから研究してみてください。〈must、should、had better〉などは案外強いニュアンスで伝わってしまうので注意が必要です。できるだけおもてなしのこころで英語表現をしていただきたいものです。

かといって、日本人同士のような以心伝心といったあいまいな表現もわかりにくいだけとなります。客観的に、ストレートに伝える必要があります。同時に、日本的な謙遜はかえって意図に反する伝達となる場合があります。日本語で「すみません」と頻発するままに〈sorry〉と言ってはならないことも、その例であろうと思われます。

こうした英語表現やおもてなしの仕方などはよい手本となる先輩を見つけて、学ぶことがよいでしょうし、なによりも場数を踏むということ。おそらく手本となるような方の接し方は、いかに相手の気持ちになって伝わるかを工夫されているでしょうし、場に応じてカジュアルにも、フォーマルにも対応した使い分けをされているでしょう。それもこれもお客様の望みを察知して、その場に応じてされていると思います。基本的にはまずは丁寧に、そしてフォーマルから始めてカジュアルにしてゆくというのがいいでしょう。

一般的には初対面であるわけですから、会話もしやすい〈yes、no〉で答えられるたわいのない話しかけから入るのがよいですし、その繰り返しによって場が和むといいでしょう。

 

【観光ガイドのテクニック】

では、具体的に観光ガイドの仕方について話しましょう。

まず、最初の声かけですが、なんといっても「笑顔」で接するということが大事です。楽しさを演出するために、場を和ますためにも、笑顔ほど大きな武器はありません。そして、先にも述べたように、〈yes、no〉で答えやすい会話から入ることも大切です。〈Is this your first visit to Osaka?〉といったジェネラルクエスションから入りたいものです。

そして、観光案内の行程を確認していきます。ルート、帰着時間や場所の確認など、お客様の頭の中でイメージできるようにしておきたいものです。また希望に応じて変更できる柔軟な対応も必要ですが、それができる時間や場所の余裕があるかどうかも確認できるとお客様は安心されます。同時に、例えば入場料が要るとか、移動のための交通費がどれだけかかるとか、飲食なども費用経費の金額だけではなく、誰が支払うのかなどの確認もしておかなければなりません。当たり前のようなことを最初に確認しておくことがボランティアとはいえ、ガイドの責任だといえます。

ガイドするにあたって、お客様がこれからどういう観光になるのかという全体像をつかんでもらうためにも、大まかな概略のあとに具体的な固有名詞などを語るようにしましょう。例えば、集合して話を始める時に鳥居の下に居るからといって、鳥居そのものの説明から入るのではなく、ここは○○神社です、神社とは、…といった流れの中に、目に見えている「鳥居」を話すことで神社全体のイメージから鳥居の位置付けがわかり、そこに居るということを分かってしてもらえるようにすると、理解度が高まり、居場所の実感がわくでしょう。

移動しながら話をすることが多いわけですから、お客様はあちこち見ながら歩いたり移動したりしているものです。ですから、別の話をしている時でも、突然目に見えてきたものに注意が注がれていると感じたら、その説明をすることがよいと思います。あるいは「次に見えてくるもの」という期待感をそそるような話の持って行き方も関心が高くなります。いずれもタイミングが重要です。早すぎると盛り上がらないし、後からだと見逃した感が残ります。

お客様の反応を事前に察知しておくことも重要です。「なぜ手を清めるの?」という疑問がわく瞬間にその意味合いを話す、湿度の高い日本では雑菌の排除の意味もあって物理的にも精神的にも“清める”ということが参拝には欠かせない要素であるという付け加えも納得してもらえる要素ではないでしょうか。いわば一般の観光ガイド本などには載っていないことを付け加えて、オリジナルなガイドの印象を与えることもお客様の満足度に繋がるものです。

 

【成功するガイディングのコツ】

海外のお客様をガイドするとき、やはり幾つかの成功のコツというものがあります。お客様が何を望んでいるかということを察知して、すばやく反応してあげるという基本にプラスする案内のコツです。

案内の内容に、イメージをより鮮明にするために、「数字を入れる」というポイントがあります。多い、少ないという主観的な説明では比較がないので伝わりにくいものです。例えば、「東大寺大仏殿の屋根は大きくて屋根瓦の数も膨大」と言ったら、それを補足する形で「東大寺大仏殿では109,400枚、姫路城天守閣では75,400枚、ちなみに一戸建ての家なら1000枚以下」といった比較ができるとより具体的なイメージができるでしょう。人口なども「大阪府の人口は、天王寺区の人口は、…」などと話すときに、イギリスの人口、ロンドンの人口などとお客様の国と比較すると、分りやすいことと同じです。そういうお客様の地域や文化と関連づけて話せば、日本という国との違いや共通性などと「異文化ソフトランディング」できるものと思います。

とはいえ、あまり細かいことにこだわることはお薦めできません。日本人なら分かる鎌倉時代、江戸時代、などの時代区分や建物の詳細な建設年などを入れすぎると、かえって混乱されてしまいます。知識の披露にならないように、ガイドの自己満足にならないよう、気を付けたいものです。相手の気持ちをおもいやり、会話のキャッチボールができるような内容へとシフトすることが肝要です。よく海外でも経験されている方もいらっしゃるかもしれませんが、「捕まると大変なボランティアガイド」にはならないでほしいものです。

海外の感覚とは違うかもしれない事柄に留意しつつ、しかし「五感なら分かり合える」ことも多い筈ですから、それらを駆使することも成功のポイントです。例えば、味覚、嗅覚。お香の匂いなどは実際に体験していただくともりあがります。食事での演出も、お皿の配置や見た目、サービングの順番などなど味だけではない日本文化を味わってもらえる機会ですから、「日本に来た」感が得られるものでしょう。漢字もその一つではないでしょうか。看板やお品書きなどからも日本を感じる人は多いようです。

こうした知識、またはエピソードトークは、自分だけのオリジナルなものをジェネラルなエピソードに加えて話せるように、事前に準備することは大事です。いわゆる「もちネタ」があると、その話のタイミングや場の雰囲気など自分なりのガイディングに引き込むことのできるものです。是非とも話を聞かせてあげたいという気持ちが相手には伝わるものですし、そうした積極性がお客様を快適にするものでもあるでしょう。また、事前に下見しておくことも話の手順や案内の時間配分なども見えてきますから、必須の準備作業だと思います。

ガイドはその地域の広報大使のようなものです。土地のことをよく知り、名物を語り、ときにはジョークを交えながら、硬軟使い分けて話すことによってよりお客様の心に届くと思います。それが「もう一度来たい」と思ってもらえることにつながるものです。そこには、やはりガイド自身が自分の感動を伝えたいと思っているかどうかにもかかっています。「私も初めて来たとき」などエピソードを交えると自身の感動が伝染して、お客様の感動を引き出すことにもなるというわけです。

 

【心掛けてほしいこと】

ボランティアガイドも通訳案内士と同じように、事前準備が必要です。基本的な知識は、まだよく暗記できていない時はメモを見ながらでも構いませんから、正確に、要領よく伝えてほしいものです。ガイドブックと同じ内容だとお客様は聞いてくださいません。自分なりのエピソードメモを作ることは効果的です。

日頃から練習できることはやっておくべきです。よくご提案しているのは、「1話題をおよそ2分以内でまとめて話せる」ようにすることです。わかりやすく人に説明する話の流れは簡単そうですが急にはできないものです。2分がどのくらいかも知っておくことも重要です。そして難しい単語は使わず、分りやすさに徹しましょう。それでもガイドの中に自分らしさ、自分にしかできない話、自分しか出せない情報をもっていることがポイントで、その蓄積を日頃から用意しておいてください。どんなことでも興味をもつ習慣をつけると、それをいつ?どこで?だれが?といった5W1Hで情報をまとめると、使いやすくなります。

さきほど「下見」の重要性を話しましたが、同様にその場所についての情報は、仲間の情報ネットワークを使って入手したり、ホテルのコンシェルジュに聞いたり、もちろんネット検索などで増えて話が広がります。こうした情報収集方法も自分なりに工夫してください。

それから「トラブル対応」についてですが、まず起きた場合にどんなときでも「びっくりしない」という心構えがあるといいです。お客様の病気、怪我は時々あることですが、ご本人はパニックになるケースが多いものですから、対応するガイドがまず落ち着き、何をすべきかを判断しなければなりません。その意味では事前に病院のリストアップなどをボランティアガイドの組織から受け取っておくなり、自己チェックするなりしておく必要があります。もちろんお客様に「病院に行くか否か」の希望等はお尋ねしなければなりません。病院などでの支払い、保険の有無も確認する必要があります。

「忘れもの」についてですが、誠意をもって対応するわけですが、金銭の立替などはしないことです。基本的には金銭的な関わりはないようにしましょう。

ガイド中のジェスチャーについては、日頃よりも手振り身振りもできるだけ大きくしていただいて良いでしょう。実際に練習して表現力を豊かに向上させておくと良いでしょう。

 

【ボランティアガイドの可能性】

ボランティアそのものは古代からあったものですが、近年特に注目されるようになりました。イベントでの人材の必要性や被災地などでの支援がよくメディアなどにも登場します。

海外からのお客様が急速に増えてきて、街にあふれる時代には、「語学力を活かして」ボランティアガイドをする方々は、現在光っている存在だと言えるでしょう。それだけに日本に来たお客様が「日本っていい国だな。また日本に行きたい、と思ってもらえるようなガイドは重要度を増しています。現在シニアの方のボランティアガイドが多いのですが、まだまだ需要は広がっていますから、若い方々にも積極的に加わってもらえると可能性は広がります。プロの通訳案内士でもボランティアガイドをする方がいらっしゃいます。ボランティアの世界は自分から参加していくことが必要ですから、どのような方にも門戸は開かれています。自分は何ができるのかをアピールして社会貢献していただけるなら、さらに大きなエネルギーとなって「日本をアピール」できるのではないでしょうか。ご自身の成長や充実感が伴い、その輪が広がることを願っています。

 

<ランデル洋子氏プロフィール>

株式会社ランデルズ代表取締役、NPO法人通訳ガイド&コミュニケーション・スキル研究会(GICSS)理事長、一般社団法人インバウンドガイド協会副会長。

名古屋市出身。南山大学英語学英文学科卒業。在学中、国際ロータリ財団奨学生としてノーザンイリノイ大学に留学。YMCA英語学校などの英会話講師を経て通訳ガイド、海外旅行添乗員・海外駐在員・ツアーオペレーター、一般通訳翻訳業務などフリーランスで幅広く活動。
1980年にバイリンガル人材の派遣会社を設立し、1992年まで代表取締役。外国企業数社の日本代表業務を兼務。一旦家庭に入って休業するが、その後、一般ビジネス通訳、通訳ガイドとしての現場業務をしながら現(株)ランデルズを立上げ、研修研究、執筆・講演活動、NPO法人主宰業務に携わる。日本を紹介する通訳ガイドの技術研鑽研究の基礎を築き、一方では国際プロトコルや、多様性対応コミュニケーション・スキルの研修など時代のニーズに応じた研修を提供し、大手企業の社員教育にも多く取り上げられた。

通訳ガイドとしてはインセンティブからVIPまで、自らも幅広い業務で活躍したが、新人通訳ガイドの養成にかけては日本の第一人者としての定評が高く、2000年には旧運輸省が全国で開催した「国際観光ワーキングセミナー」のメイン講師を務め、サミット会議他数々の国際会議や企業における国際化研修や講演を担当。2003年、異文化情報学博士号を取得。愛知万博では日本政府館のVIPエスコート国際接遇研修、アジア開発銀行年次総会の語学ボランティア研修などを手掛ける。特に国際観光インバウンドの通訳ガイド関連では、観光庁の通訳ガイドのあり方検討会他の委員を務め、美しい英語と卓越した指導力で、楽しくわかりやすい講演&研修講師として人気がある。

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